《あしたのための読書:エトセトラ》
★『美味礼讃(びみらいさん)』 海老沢泰久氏著
●「料理界の東大」、「世界三大料理学校」と称される日本一の調理師専門学校・辻調理師専門学校の創業者・辻静雄氏の半世をノンフィクションとフィクションを織り交ぜて小説仕立てに仕上げた書である。
一昨日(5月28日)、日本料理の老舗・船場吉兆が廃業を発表した。
そのときに、僕の友人が、本書にも船場吉兆の創業者・湯木貞一氏の名が登場することを覚えていて、おもしろい内容だといってすすめてくれた。
文庫版としても初版が1994(平成6)年といささか古く、なかなか書店で発見できなかったが、数件目で探し当てて、早速読み終えた。
この手の少し古い本はネットで購入するのが一番手っ取り早いが、古い書籍であるからこそ、書店をめぐり「本との出合いの瞬間」を楽しみたいものである。
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●辻静雄氏は、元々は新聞記者であった。その偶然の取材において知り合った女性と結婚する。そして、奥さんの実家であった調理学校の経営に参画することになる。
二代目社長である。
二代目社長といっても生まれもった宿命からではない。従って、料理の世界においてはズブの素人であった。
当時の料理学校といえば、お金持ちの主婦や結婚前の女性の料理学校であった。
ふとしたことがきっかけとなって、本格的な調理師を養成したいと心した辻静雄氏が目をつけたのが西洋料理・フレンチであった。当時は昭和30年代半ば。フレンチといっても、オムレツやトンカツなど和風の域を出なかった時代であり、まだまだニセモノやなんちゃってフレンチの頃である。
そこから、二代目社長・辻静雄氏の半世記がはじまる。
●本書の楽しみ方は、ふたつ。
ひとつは、<料理>を楽しむことである。
もうひとつは、<経営姿勢>を学ぶことである。
辻静雄氏は、とにかく勉強熱心である。そのことを業としない人にとってみれば、度が越えていると思えるくらいであろう。ただし、それを業・商売とするからには、そのくらいの「覚悟」と「実践」が必要であることが本書のいたるところで表現されている。
義父の調理学校に入るまでは、料理の世界とは縁のなかった辻静雄氏。
はじめにやったのが、鯛(たい)の三枚おろし。包丁さばきの訓練を願い出たところ、義父から毎日30枚おろせと命じられた。魚の中でも鯛が最も硬く難しいからである。それからは毎日実践した。そして、何と半年間・5,000枚以上さばいたときに、その感覚を身につけるまでにいたった。・・・その域まで徹底してやらないと、その道ではメシを喰えないのである。
ところが、そこで辻静雄氏は迷うことになる。
創業者の義父は元料理人であったが、自分は料理人ではない。そんな自分が、生徒を教え、ましてや料理学校を経営できるかという不安であった。
そんな迷いの中、確証があったわけではないが、フランス中の有名レストランを妻と共に食べ歩く旅にでた。傍からは食道楽にしか見えないかもしれないが、商売として食べ歩くのである。従って、昼も夜も、毎日毎日レストランのこってりとした料理を口にしなければならない。しかも、神経をとがらせての食事となる。・・・経営者の執念がうかがえる行動であり、それが元で後年は肝臓病を患うことにもなった。
見知らぬ土地での旅は、多くの料理と共に、多くの出会いをもたらした。
最終のできあがりをイメージできるかが料理の良し悪しを決める。
腕の良いコックがいても、最終の味は知らない。
だからこそ、その「最終形」を教えるのが経営者の役目である。
その旅で出会った生涯の複数の友人たちは、みな同様のことを口にした。
辻静雄氏自身が、経営者としてもやっていけると目標がもてるきっかけにもなった旅でもあった。
一方、料理そのものも非常に楽しめる書である。
多くの実在店名や実在の料理が登場し、その料理そのものの「調理法」が登場する。また、有名店の隠しテクニックも満載である。
男性目線・女性目線、双方から楽しめるのではないだろうか。
従って、自分でも「つくってみたい」と感じる書である。
料理書としても経営者の書としても学ぶことが多く、また、とても楽しく読むことができる一冊である。
●おすすめ度→★★★★☆
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●本書の中に、実名書が多く登場する。その中でも、後年日本料理にも力を入れた(そのときに船場吉兆に毎日通った記載が登場する)辻静雄氏自身の著による英語版の日本料理を紹介する書があった。・・・う~ん、気になる・・・やばい・・・買っちゃおうかな~?・・・僕は図鑑が大好きなのだ。
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●本書を、経営者のチャレンジ書としてもおもしろいと感じた方は、日産のMr.CARLOS GHOSNの『SHIFT(洋書)』や、ヤマト運輸・小倉昌男氏の『小倉昌男・経営学』がおすすめです。
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